「世界中の皆さん、こんにちは!「愛川レッドカーペット」運営事務局のシュニンですいや~、皆さんの熱のこもった作品の数々、本当に、本当に本当に本当に感動しています」
深夜の愛川町役場のフロア。デスクに深く座って、パソコンのキーをたたき始めたシュニン。メールやファクスのチェックを行いながら、明日更新する予定のブログの記事を打ち込み、日付が変わるのを待とうとしていた。この日は応募受付の締切日。放置できない運営事務局の仕事がたまっていたが、応募作品がひっきりなしに来るので、仕事も手につかなかった。それはとても嬉しい悲鳴だ。少し興奮を抑えながら、プレミアムフライデーにも関わらず、カタカタとキーをたたいていく。
「なんと、ムービー部門には19作の応募がありました全作品をコチラのページにアップロードしておりますので、ぜひご覧ください感動的な作品、考えさせられる作品、ほっこりする作品、クスッとする作品、爆笑する作品、とにかくとにかく、力作が揃っていますよ~そして、驚いたのは町外からの応募がとても多かったこと愛川町に訪れていただけるだけでも嬉しいのに、そこでこんな素敵な作品を撮っていただけたなんて…こちらが仕向けたこととはいえ、シュニン、本当に胸がいっぱいです」
ロケに関する相談が増えたことは、正直言うと少し大変だった。でも、応募作品を見ているうちに、「この人たちは、ここで本当に濃密な時間を過ごしていたんだな~」と確信できた。胸がどんどん熱くなってきた自分に少し照れた。
「これから審査へと向かいますが、気になった作品や応援したい作品がありましたら、是非「いいね!」や「リツイート」、「グッドボタン」などよろしくお願いします」
そうだ。ここからが運営事務局の本番だ。皆さんの思いを受け止めなければならない。シュニンは手を休めると、パソコンの右に置いてあった紙コップのコーヒーを飲み干す。
「今年はマグカップでも作ろうかな。いくらかかるか、コゾウに相談してみよう」
そうつぶやくと、急に眠くなってきた。右頬をつねって、眠気を覚ます。そろそろ、ブログにコゾウを登場させなければいけない。コゾウの登場はもちろん、フォト部門にも触れることを意味する。
シュニンは悩んだ。冷やかしで投稿していたが、正直フォト部門がどう展開しているのかよく分からない。ブログの書き手として、把握していないといけなかったが、忙しさにかまけ、コゾウに任せきりにしていた。それに、初めはグッドアイデアと思っていた仮想ラジオ書き起こしシリーズも、マンネリ化していた。悩んでいるうちに、だんだんボーッととしてきた。
「コゾウ、何寝てるんだよ。カゼひくぞ!」
なぜか目の前にコゾウが立っていた。
「コゾウ!なんでここに?」
シュニンは自分の身に起きていることがイマイチ飲み込めなかった。この時間にコゾウがフロアにいること、そして、自分がコゾウと呼ばれていることに。
「はぁ?コゾウがここにいる理由なんて知らないよ。Wi-Fi環境があるところで、フォト部門の応募状況確認するんじゃないの?」
シュニンは色んな映画なんかよりも大分早く自分の身に起こったことを悟った。昨日、CDに誘われ、「宇宙から来ましたみたいな写真を撮ろう」とコゾウと二人で写真を撮った。あの時、CDはコゾウに何か耳打ちしていたはずだ。そこからフワフワした感覚が抜けず、1回寝ても変わらなかった。
「コゾウ、俺たちなぜか、担当とキャラが入れ替わってる。」
コゾウは笑った。
「たまには面白いこというな。フォト部門の応募作品の公開はどうなってるの?」
シュニンはコゾウをにらんだ。コゾウは目を合わせずにもう一度言った。
「公式サイトのブログに書かないといけないんだよ。フォト部門の応募作品はどうやって確認したらいいんだよ?」
観念してシュニンは答えた。
「ツイッター、インスタグラム、フェイスブックで、ハッシュタグ #愛川レッドカーペットで検索します。テーマごとに知りたい場合には、 #愛川町は水の町 #愛川町の夏休み #行こっか愛川町 で検索ですね。表示された投稿の中で、原則、タイトル・撮影場所・指定したハッシュタグ #愛川レッドカーペット、3つのテーマいずれかのハッシュタグがついている作品です!」
コゾウはまた笑った。
「ちょっと複雑だよな~。長いし。」
シュニンはどうやったら元に戻れるかを考えていた。ふつう映画だったら…
「ムービー部門に応募して、疲れてるんじゃないか?」
心配するコゾウの問いかけを、シュニンは無視した。
「もう一度光の下で写真を撮ろう。これからCDにラインする。」
シュニンの問いかけを、コゾウは無視して続けた。
「アルタビジョンのCM、抜群に効果あったよな~。かなちゃんTVもそうだよ。あのときのテンションはさすがにちょっとおかしかったけど。本当にこれだけの応募があったことに感謝しかないよ。フォト部門はどうよ?」
シュニンはコゾウの手をつかんだ。
「もう一度あの光の下に。あの光の下で写真を撮れば戻れるはずだ」
シュニンはコゾウの腕を強引に引っ張った。
…目を覚ましたシュニン。目の前には書きかけのPCがあった。深夜のフロアには誰もいない。
「夢…?」
インスタントコーヒーを飲み干しすと、時計の針は0時を回っていた。
シュニンは急いでPCを開き、カタカタとキーをたたき始めた。ブログの更新が終わると、自分のアイフォンに入れてあったインスタグラムのアプリを開き、「 #行こっか愛川町」と入れて、検索キーをタッチした。
「こんなに…」
日をまたいで胸が熱くなったシュニン。1枚1枚丁寧に眺めていく。コゾウからの速報のラインを読む。フォト部門の応募写真は532枚に上ったらしい。
「あっ・・・!」
小さく声を上げた。シュニンとコゾウが、光の下に立っていた。
「夢じゃなかったんだ、あれ。」
恐る恐る写真の中の自分を見る。手元には、いつものカチンコが握られていた。(終)